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2010年08月03日

「歯内療法」

●月●目

診療中に腹が立っこと。

若くて(?)綺麗な(??)衛生

士が側にいてくれるだけで幸せな

はずなのに、突如としていら立ち

の原因になることがしばしば。

エックス線写真。確かこの患者

は右上の4番の抜髄のはずなのに、

シャーカステンには左上のエック

ス線写真がかけてある。あれれ、

と思って患者の口腔内をのぞき込

むと、やっぱり右上が患歯だ。よ

くよくシャーカステンの写真を見

直すと裏返し。「おいおい、注意し

てくれよ。小さなミスが、大きな

過失を生むんだから」

衛生士に「抜髄の用意」と言っ

たはずなのに、麻酔の用意までは

よかったが、次に出てきたのが抜

歯鉗子とエレベーター。「おい、耳

が遠いのか?」

根充のとき。シーラーを練って

もらう。練板から流れるくらいに

ゆるい。「もっと粉を入れて、もっ

と練り込め」と注文。今度は硬す

ぎてボソボソ。「おいおいおい、加

減というものを知らないのか!」

僕が立ち上がろうとしたとき、

いきなり無影灯に頭をゴツン。

衛生士を怒っちゃダメ。恨まれ

て、仕返しされる。小さな怒りは、

大きな恨みを生むんだから。

●月●日

診療中に腹が立っこと。

前医の処置の悪口は、絶対患者

には言ってはいけない。でも、前

医に腹が立っことはよくある。

エックス線写真を見ると、鋳造

冠がかぶさって、根管には根充材

らしきものを認めない。クラウン

のやり直しをするのだが、生活歯

だからというので麻酔をする。さ

て、クラウンの除去。ずいぶん硬

い。「いくらニッケルクロムが安い

からといって、こんなにカントゥ

アーをつけて、しかも厚みをもた

せて金属をふんだんに使わなくて

もいいじゃないか!」と、イライ

ラしながらタービンで削る。金属

の屑が飛ぶ。ゴーグルをかけて削

っているのだが、細かい金属の粉

が顔に当たる。ゴーグルの隙間か

ら目の中に入り込む。タイム・イ

ズ・マネーと割り切り、新しいダ

イヤバーを2本も使ってようやく

クラウンを除去すると、歯冠部分

はほとんどがセメント。セメント

を削除していくと根管にはワッテ

が詰め込んである。失活歯だった。

ちくしょう。

再びエックス線写真。太くて長

いポストコアの入った大臼歯。こ

ういうときに限ってプアーな根充。

根尖病巣もある。ちゃんと根充で

きなかったら、こんなでっかいポ

ストを入れるなヨ!!と、小心者

は心の奥底で叫び声をあげるので

した。

●月●目

診療中に腹が立っこと。

病状はないのだが、エックス線

写真を見ると根管充填が甘い。「か

ぶせる前に根っこの治療をやり直

しましょう」と、嫌がる患者をよ

うやく説得して始めた歯内療法。

いざ根管を開けようと思ったが、

それがなかなか開かない。狭窄根

管だ。やっとの思いでなんとかか

んとか15番のリーマーが通った。

「さあ、拡大だ」と思って20番のK

ファイルを入れて4分の1回転し

た瞬間にファイルが折れた。Kフ

ァイルを挿入する直前に、先端部

分が少しヨレヨレになっていたの

が気にはなっていたのだが。

背中にびっしょり汗をかいて、

折れたファイルを除去。根管の拡

大も済み、いざ根充。患者に「大

きく口を開いててくださいね」と

言って、ガッタパーチャポイント

を調整している最中に、口の中に

は唾液があふれる。衛生士に「バ

キューム!!」と叫んでも、時すで

に遅し。せっかく乾燥させた根管

が唾液の洪水で水浸し。「あーあ、

最初っからやり直し」と、ブツブ

ツ独り言を言いながら、横着して

ラバーダムをかけずに治療してい

た自分に腹を立てる。

即座にメタルコアのために根管

を形成。アンダーカットを作らな

いようにと、何度もしつこくバー

で形成していたら、どこかで「バ

キッ」という音がしたような、し

ないような。こわごわ歯に光を当

ててよーく見てみると、破折線。

「ゾーッ」。ETかジョーズにでも

出くわしたかのような鳥肌のたつ

思い。患者には、「どうもこの歯、

治療の甲斐なくもたないようで、

抜かなければなりませんねぇ」な

どと、しどろもどろになってムン

テラしている。

何も“しない”療法のほうが、

患者にとっても自分にとってもは

るかによい治療だったかもしれな

いと思うと、情けないやら、腹が

立つやら。自業自得。つけは結局

自分に回ってくる。

(デンタルダイヤモンド 1995年5月号掲載)


投稿者 takagi : 2010年08月03日 12:42

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