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2010年08月03日

スーパーデンティスト

悪漢がのさばって小市民をいじめているところに、どこからともなくやってきてスーパーパワーでたちどころにやっつけてしまう。そんなスーパーヒーローに、子どもの頃からあこがれていました。

 スーパーヒーローには、月光仮面や七色仮面などのような正体不明の「仮面型ヒーロー」や、鉄腕アトムや少年ジェットのように、普段からそのままの姿で生活している「友達型ヒーロー」、あるいは、スーパーマンや仮面ライダーに代表される「変身型ヒーロー」など様々なタイプがありますが、いずれ劣らぬ強力パワーと正義の魂は、熱血少年の心を魅了していたのでした。
 「僕もいつかはスーパーヒーローに・・・」の夢を抱いて、風呂敷を巻いて屋根の上を飛び回っていました。

 気がついたら、スーパーヒーローにはなれなくて、歯医者になっていました。たまにコンポジットレジンの充填がうまくいったときなど、わき上がる感動を覚え、「おれはもしかしてスーパーデンティストなんじゃないか、フフフ・・・」なんて自惚れながら、患者に鏡を持たせて「今日、ここんとこ歯とおんなじふうに詰めておきましたから」などと得意げになって説明したりしています。
 歯科雑誌などに、フルマウス・リコンストラクション(全顎的治療)の症例で、エンド(歯内療法)もペリオ(歯周治療)もきちんと施され、補鉄物もきれいに仕上げられ、リコールも完璧に遂行されて長期的なフォローアップがおこなわれた報告論文がたくさん載っています。
 「ああ、これがスーパーデンティストの仕事なんだな」とつくづく感心してしまいます。1歯単位の精度の高さは当然で、全顎的なペリオのコントロールも十分。咬合平面や顎関節機能にもこだわった治療をさり気なくこなしている歯科医のことを思うと、「ふーっ」と、溜息が出ます。
 専門医制度の確立しているアメリカなどでは、それぞれのスペシャリストがそれぞれの責任の元で、高い水準でひとりの患者を複数の歯科医が診ており、ある意味ですばらしいシステムだと思います。
 そんな専門医制度のない日本の日常臨床の中で、エンドもペリオも充填も補綴も外科も矯正も、小児から老人までありとあらゆる患者に対して高い水準で治療を進めていくことは、決して容易なことではありません。まして、患者を長期に歯科医の管理下においておくためには、患者と歯科医との人間関係が深く関わってくるので、歯科医としてのみならず、人間としても卓越した魅力がなければつとまらないでしょう。それがスーパーデンティストに違いありません。
「ふーっ」また、溜息が出てしまいます。

 さて、自分の臨床は、というと、「今度の日曜日に結婚式があるんで、奥歯はいいから何とか前歯だけでも入れてくれ」とせがむ患者の言うなりになっている「開いててよかった」のコンビニエンス型スーパー・デンティスト(別名便利屋的よろず歯医者)です。

(日本歯科評論 1988 掲載)

投稿者 takagi : 09:37 | コメント (0)