2010年10月31日
幸せの新しいものさし
「ものさし」って、衣紋掛け(hanger)や魔法瓶(pot)と同じくらい死語に近いんだけど・・・
「幸せの新しいものさし」
博報堂大学・幸せのものさし編集部PHP研究所

竹内まりやの歌のひとつに「幸せのものさし」という曲がある。
テレビドラマの主題歌になったもので、40歳前後(アラフォー)独身女性の
“自由と孤独”をテーマにした名曲だ。
40歳にもなっていまだ独身というのは、昔は「いかず後家」と言われて
かなり暗いイメージがあった。
ところが現代社会においてアラフォー独身女性は少なくなく、キャリアウーマン、
働きマンなどのポジティヴな“称号”さえ与えられている。
女性は早めに嫁に行って子供を作り、家庭をまもるという概念はなくなった。
時代は変わっている。それに伴い価値観も変わった。
その変化の様は、情報伝達の速さが進むのと同様に、近年急速に著しいものが感じられる。
「幸せの新しいものさし」は、竹内まりやの新曲・・・ではない。
我が国大手の広告会社である博報堂の人材育成を担う企業内大学「博報堂大学(HAKUHODO UNIV.)」
の幸せのものさし編集部によって取材、執筆された新刊本で、経済的に疲弊し手詰まり感の強い
我が国の現代社会においての新しい価値観を紹介したものだ。
「ものさしを変えたことで新しい豊かさを見つけている11人」のエピソードが収録され、
現代の生き方、ビジネスモデルなどが提案されている。
具体的には、個人間の業績数字競争からチーム全員での情報共有する“共創”に変えた接客アドバイザーを
紹介した「競争のものさし」、企業は従業員とその家族に対する誠実さと責任を持つべきと主張する、
ベストセラー本『日本で一番大切にしたい会社』の著者・坂本光司氏を紹介した「会社のものさし」、
食べる人を作る人のパートナーにして生産-流通-消費の既成概念を変えた「消費のものさし」、
別荘ではない、田舎と都会の二拠点を生活の場とするライフスタイルを紹介した「住まいのものさし」、
本を売るのではなく読書という体験を売る本と人との出会いを演出している「読書のものさし」、
飽食によりメタボに悩む我が国から、食費の一部を飢餓の国への寄付に回すtable for twoの「寄付のものさし」、
街をキャンパスにしてしまった「学校のものさし」、他に「感覚のものさし」「子育てのものさし」「時間のものさし」「大人のものさし」と、
視点を変えたことで新しい豊かさを見つけた人たちのことが紹介されている。
僕が特に印象に残ったのは、「感覚のものさし」。ダイアログ・イン・ザ・ダーク(DID)と呼ばれる、
完全な暗闇の中にしつらえた空間を探検するプロジェクトの紹介である。
真っ暗闇の中では視覚認識ができないために、外見的な印象による既成概念は捨て去り、
人と人とがフラットに心の対話ができるようになるのだという。
視覚障害者がアテンド・スタッフとして働き、不自由なはずの彼らが暗闇の中では
一番自由であるという逆転感が契機となって、参加者は思い込みを排して虚心坦懐に
他者と向きあうことができるようになるのだそうだ。
ほのぼのとする話や、なるほどなぁと思える話が詰まっていて、なかなかに考えさせられる本であり、
各章ごとに「チャレンジの本質」と「マーケティング活用へのヒント」が記されている。
さすがに大手の広告会社だけあって、そのビジネスの視点というものが強い。
常に時代の流れをつかんで、それに対応すべき“次の一手”というものを考えている。
あいにく、というか、よかったというか、本書には「歯科のものさし」の項目はない。
歯科医過剰時代、保険診療の締め付け、開業医のワーキングプアなど、
ネガティヴな話題ばかりが先に立つ現代日本の歯科事情。
そのためか、経営セミナーや審美、インプラントなどの研修会が花盛りだ(僕もやっている^^;)。
そして、『お医者様』と呼ばれていたのが、『患者様』と言うようになった現代。
明らかに「医療のものさし」「歯科のものさし」は変化している。医者と患者の関係は“人間としての
関係”から、客と店の“ビジネス関係”になろうとしている(なってしまった?)。
韓国では歯科医院のブランディング化が活発だと聞く。
来院患者にはウェルカム・ドリンクのサービスがあり、初診時には医療コンサルジュが様々な
診療メニューを提示してくれるらしい。
日本でもそれを参考にした歯科医院経営が行われつつあるそうだ。
保険では不採算と言われる総義歯やエンド、ぺリオの治療はなおざりにされ、
高額な自費診療である審美やインプラント治療のために愛想をふるまう歯科医院。
患者を客と考えると、「病気になってくれてありがとう」「数多い歯科医院の中から当院を選んでくれて
ありがとう」になり、初診の時の第一声は「いらっしゃいませ」。
治療が終わって“おだいじに”、ではなく「毎度ありがとうございました」となる日も
近いかもしれない、などと思うのは杞憂か?
デンタルやメディカルをビジネスと考えるのであれば、それは常に時代に敏感に反応し、
そのものさしの目盛りを変え続けなければならない。
常に“次の一手”を考え続け、実践していかなければならない。
しかし、医療の本質を考えたとき、それは紀元前4世紀のヒポクラテスの時代から不変なはずだ。
病める患者を救う聖職者としての「ものさし」を持っていれば、どんな時代になろうとも心豊かに生きていけるはず。
すなわち歯科のものさしを新しく変える必要はないということなのだ。
常に患者のために治療の技を磨き、知識を蓄えていくことと、心の平安を保ってさえいれば良いのである。
生意気にも、この本を読んでの僕が考えた「歯科のものさし」だ。
現代日本のような成熟しきった社会においては「モノとカネの時代から心の時代」と言われて久しい。
しかし、なかなか心に余裕が持てずにもがき苦しんでいるのが現状のようだ。
改めて自分の仕事の本質を考え直してみたり、他人の考えや行動を知ることで、
いま自分が行うべきことがみえてくるはずだ。
いまいちど、自分の足元を見つめなおそう。
何か、いいものが拾えるかもしれない・・・(笑)
(Q社書評原稿)
2010年10月06日
美人に釣られた
美人な著者に釣られて買ってしまった・・・
「ファーストクラスに乗る人のシンプルな習慣」
美月あきこ・著 祥伝社


先日学会で札幌に行ったときに機中で読んだ本。
帯に出ていた美人な著者の写真に魅かれてつい買ってしまいました。
ファーストクラスに乗る人の共通点。
メモ魔。朝型人間。
姿勢が良い。声がいい。
丁寧な挨拶。持ち物が少ない。
読書家。フレンドリー。
等々。
なるほど・・・姿勢を良くしよう。
カードにメモることの効用などは古くから「知的生産の技術」などで紹介されていたこと。
声がいいかは分からないが、でかい声には自信がある。
文章がへたくそで読みにくい。
薄らバカ女のブログを読んでいるようだ(失礼)。
かなりの駄作で、鼻持ちならない本です(笑)。
「ファーストクラスに乗る人=成功者」という原則が
著者の根底にあるところからすべてが論じられているので、
読んでいて「なんか変だな」「そんなわけないだろ!」と、
無性に腹が立つ本。
いつかはファーストクラスに・・・という夢を持っていたのだが、この著者のおかげで若干失望。
Amazonの書評でもかなり点数の低い「お薦めできない1冊」(笑)
著者のサイトを覗いてみると、ますますイラっとくるね。
でも近年の「できないくせに肩書だけがやたらまぶしい名歯科医」
あるいは「美人なだけでちょっと有名になってつけあがっているフリーランス衛生士」
に通じるところもあり、当世の多くの歯科医院のホームページや、医院経営セミナー
との共通点が多い。
“反面教師本”としてはなかなか刺激的で良い本だったのかも・・・
僕が連載している歯科雑誌の書評に取り上げようと思ったが、編集部から以下の返事が・・・(笑)
「先生のブラックコメントをかなり読んでみたいのですが(真実ですので!),
小社はそんな方々も著者としてお付き合いさせていただいているところもありますんで…….
イヌみたいなサラリーマンでスミマセン.」
洒落のわからない、犬の糞みたいな出版社だぜ!
2010年07月21日
ヒルクライマー
自転車がブームだ。特に、ロードバイクで山を登るヒルクライムに人気がある。
坂道を見ると思わず自転車で登りたくなる、という自転車仲間が周りにたくさんいる。
死ぬほど苦しくてもペダルを漕ぎ続け、自転車で峠に登ることに取り憑かれてしまった人たちのことを「坂バカ」と称する。

【高千穂遥・著「ヒルクライマー」小学館】
そんな自転車乗りの、特に「坂バカ」のマゾヒズム的な行動を小説にしたのが、最近読んだ「ヒルクライマー」である。
メタボリック症候群の中年サラリーマンが、自転車にはまり、ヒルクライムに挑むうちにプロのレーサーにも匹敵するくらいのヒルクライマーになる。そこに至るまでには、家庭を犠牲にしての過酷なトレーニングの連続。サイクルショップのレーシングチームに所属し、ヒルクライムの絶対的エースとして活躍している。ある時、大学を中退した元マラソンランナーだった19歳若者がサイクルショップに入ってきた。彼は少しずつ自転車のおもしろさを知って、チームの一員となってやがてヒルクライムに夢中になっていく。そしてついにはエースを狙うところにまで成長し、エースの中年とさまざまな絡みが生じていく、というスポーツ根性的娯楽小説である。
「はっはっ。はっはっ。呼吸のリズムを保ち、ひたすら脚をまわす。ただまわす。ただ走る。ただ登る。何も考えずに登る。残り三キロ。」激坂を登るレースシーンはわくわくする。実際にヒルクライムを経験したことがあれば、そのリアリティがよく伝わる。本書の著者である高千穂遙自身が、自転車に熱中した「坂バカ」であるがゆえに、その苦しさとそれを上回る快感を知っている。「登るのは、無になるためだ。あらゆる葛藤、心労、軋轢から解放され、ある種の高揚感が精神を満たす。肉体はつらい。筋肉がきしむ。関節が悲鳴を上げる。だが、その苦痛は、不思議に甘美だ。無がもたらす最高の快感だ。」という一節に、ヒルクライマーのすべてが凝縮されている。
東京の西部から山梨、神奈川あたりの実際のサイクリングコースや、ヒルクライムコースが正確に描写されていて、付近の自転車乗りの人たちはよりリアルに読むことができるだろう。
説明的な部分も多く、門外漢にも理解しやすいと思うが、正直言って自転車に興味のない者にとっては、おもしろさは半減かもしれない。しかし、自転車愛好者(最近では歯科医のライダーが激増しているらしい)には、診療後の気分転換や学会出張時の新幹線で読むのに最適なライトノベルとしてお勧めしたい。マンガ本を読む感覚で、さらりと読める。
何を隠そう、本書は歯科医で自転車仲間のイガイガ君が、学会で山形から横浜に向かう新幹線の中で読破し、横浜で偶然に会ったときに「タカギ先生、帰りの新幹線でぜひどうぞ・・・」と、いただいた本である。「近いうちに一緒に走りましょう」という言葉の裏には、「坂バカ」でもあるイガイガ君のヒルクライムに対するみなぎる自信が含まれていた。
自転車は好きだが、坂道が嫌いな僕にとってはヒルクライムよりも、ネオン輝く飲み屋街をハシゴする“ヨルクライマー”の方が良いのだが・・・。
2009年11月03日
一般向けインプラント本
抜井規泰・著
「知らないと怖いインプラント治療」
後悔しない20のポイント
(2009年/朝日新聞出版)

著者は若い朝日新聞の記者。
インプラント治療の名医とヤブ医者の見分け方を書いた、帯や題字、装丁からしてなんとなくおどろおどろしい(笑)雰囲気の一般向けの健康本だ。
インプラントは間違いなく、地上で最も優れた人工臓器であり、最良の治療を受ければ人生が変わるくらい、幸せになれる。しかしその一方でヤブ医者にかかって失敗したら、後悔しか残らない。
ワーキングプアな歯科医が増加し、経営の為にインプラントを手掛ける歯科医が増え、死亡に至る医療事故まで起きた現状や「インプラント認定医」の実態を新聞記者ならではの切り口で説いている。
取材ソースのドクターの偏見によるのだろうが、読み方によっては、ブレードやサブペリ、歯内骨内ピンインプラントなど歴史的なインプラントをも推奨していること、手術は立位が座位に勝るという件など、「?」な部分も少なくはない。
「米どころ」で失敗が多いという記載や、(社)日本口腔インプラント学会の認定する100時間講習を受講したインプラン専門医こそが信頼できる、という点も納得しがたい。
(特に前者は「米どころ」で開業している立場からすると、「えっ!」と目が大きくなる)
歯科医師国家試験にインプラントに関する出題がないという点は事実と異なる。
6、7年前から国試に毎年2~3問のインプラント関連が出題されているので、僕は大学でのインプラントの講義の中でそれを紹介している。
インプラントの成功が「外科手術」に傾倒しており、インプラントにおける成功の重要なカギである「補綴設計、咬合」や「治療後のメインテナンス、フォローアップ」などへの言及がなされていないことが残念。
この手の本にしばしばみられる巻末の「お薦めの歯科医院一覧」がないのが、胡散臭くなくてよい。
歯科医では書けない(書きにくい)事をズバズバ書いているのは、私個人としては読んでいて面白かったが、実際に臨床の場でインプラントを行っているドクターにすればいささか不愉快な点もあると思う。
いかにも朝日の記者!っぽく、モノを斜めから見た独断的な表現も随所にあって、一般の読者が誤解したり、妄信したりすることは容易に想像できる。
しかし本書を読んで来院する患者は、良くも悪しくもそうとう手強いはずだ。
インプラントを手掛ける歯科医の一人として、さらに勉強し研鑽を積んでいかなければならないことを再認識するきっかけとなった。
「患者の幸せを第一に」真摯にインプラントに取り組まなければならない。著者の目論見がそうであるように。
2007年10月01日
「生物と無生物のあいだ」
福岡伸一 著
「生物と無生物のあいだ」
講談社現代新書1891
「動的平衡」論をもとに、生物を無生物から区別するものは何かを生命観の変遷とともに考察した本
である。DNAやゲノムなど難解な生命のミステリーを、分かりやすく解き明かしている。
何よりもおもしろいのは、野口英世のロックフェラー大学での評価が、日本のそれとは異なったもの
であるとする様々なエピソードや、DNAの二重ラセン構造でノーベル賞を受賞したワトソン&クリック
以前に、DNAイコール遺伝子だと気づいたオズワルド・エイブリーの研究姿勢など、サイエンスに潜む
裏話がふんだんに織り込まれていることだ。
著者のロックフェラーやハーバード大留学を中心にした研究回顧のエッセーでもあり、科学者がどう
研究に取り組むべきかということも教えられる。文章がすこぶるうまい不思議な科学の本だ。

クイント12月号のミニ書評の原稿にした。
僕にしては珍しくベストセラー本の書評を書いた・・・
2006年03月06日
国家の品格

徳山での講演の際に、主催者の和田精密歯研のインプラント事業部の栗村さんから「帰りの新幹線の中で、暇つぶしにでも」といって渡されたのが、けっこう話題になっている「国家の品格」でした。
栗村さんが言うように、軽快で痛快な国家論が読みやすくて、徳山から博多までの新幹線の中で、ぐいぐい引き込まれるように読んだ。
内容は、いま日本に必要なのは、論理よりも情緒、英語よりも国語、民主主義よりも武士道精神であり、「国家の品格」を取り戻すことである。「国柄」が大事で、弱者や敗者に向けた思いやる心「惻隠」の情が、誇りと自信を与えると提言している。
4月からの保険制度の変更で、ますます窮地に立たされる開業している“歯医者”に対しても、情けをかけて欲しいものだ・・・