2010年07月21日
ヒルクライマー
自転車がブームだ。特に、ロードバイクで山を登るヒルクライムに人気がある。
坂道を見ると思わず自転車で登りたくなる、という自転車仲間が周りにたくさんいる。
死ぬほど苦しくてもペダルを漕ぎ続け、自転車で峠に登ることに取り憑かれてしまった人たちのことを「坂バカ」と称する。

【高千穂遥・著「ヒルクライマー」小学館】
そんな自転車乗りの、特に「坂バカ」のマゾヒズム的な行動を小説にしたのが、最近読んだ「ヒルクライマー」である。
メタボリック症候群の中年サラリーマンが、自転車にはまり、ヒルクライムに挑むうちにプロのレーサーにも匹敵するくらいのヒルクライマーになる。そこに至るまでには、家庭を犠牲にしての過酷なトレーニングの連続。サイクルショップのレーシングチームに所属し、ヒルクライムの絶対的エースとして活躍している。ある時、大学を中退した元マラソンランナーだった19歳若者がサイクルショップに入ってきた。彼は少しずつ自転車のおもしろさを知って、チームの一員となってやがてヒルクライムに夢中になっていく。そしてついにはエースを狙うところにまで成長し、エースの中年とさまざまな絡みが生じていく、というスポーツ根性的娯楽小説である。
「はっはっ。はっはっ。呼吸のリズムを保ち、ひたすら脚をまわす。ただまわす。ただ走る。ただ登る。何も考えずに登る。残り三キロ。」激坂を登るレースシーンはわくわくする。実際にヒルクライムを経験したことがあれば、そのリアリティがよく伝わる。本書の著者である高千穂遙自身が、自転車に熱中した「坂バカ」であるがゆえに、その苦しさとそれを上回る快感を知っている。「登るのは、無になるためだ。あらゆる葛藤、心労、軋轢から解放され、ある種の高揚感が精神を満たす。肉体はつらい。筋肉がきしむ。関節が悲鳴を上げる。だが、その苦痛は、不思議に甘美だ。無がもたらす最高の快感だ。」という一節に、ヒルクライマーのすべてが凝縮されている。
東京の西部から山梨、神奈川あたりの実際のサイクリングコースや、ヒルクライムコースが正確に描写されていて、付近の自転車乗りの人たちはよりリアルに読むことができるだろう。
説明的な部分も多く、門外漢にも理解しやすいと思うが、正直言って自転車に興味のない者にとっては、おもしろさは半減かもしれない。しかし、自転車愛好者(最近では歯科医のライダーが激増しているらしい)には、診療後の気分転換や学会出張時の新幹線で読むのに最適なライトノベルとしてお勧めしたい。マンガ本を読む感覚で、さらりと読める。
何を隠そう、本書は歯科医で自転車仲間のイガイガ君が、学会で山形から横浜に向かう新幹線の中で読破し、横浜で偶然に会ったときに「タカギ先生、帰りの新幹線でぜひどうぞ・・・」と、いただいた本である。「近いうちに一緒に走りましょう」という言葉の裏には、「坂バカ」でもあるイガイガ君のヒルクライムに対するみなぎる自信が含まれていた。
自転車は好きだが、坂道が嫌いな僕にとってはヒルクライムよりも、ネオン輝く飲み屋街をハシゴする“ヨルクライマー”の方が良いのだが・・・。
2009年11月03日
一般向けインプラント本
抜井規泰・著
「知らないと怖いインプラント治療」
後悔しない20のポイント
(2009年/朝日新聞出版)

著者は若い朝日新聞の記者。
インプラント治療の名医とヤブ医者の見分け方を書いた、帯や題字、装丁からしてなんとなくおどろおどろしい(笑)雰囲気の一般向けの健康本だ。
インプラントは間違いなく、地上で最も優れた人工臓器であり、最良の治療を受ければ人生が変わるくらい、幸せになれる。しかしその一方でヤブ医者にかかって失敗したら、後悔しか残らない。
ワーキングプアな歯科医が増加し、経営の為にインプラントを手掛ける歯科医が増え、死亡に至る医療事故まで起きた現状や「インプラント認定医」の実態を新聞記者ならではの切り口で説いている。
取材ソースのドクターの偏見によるのだろうが、読み方によっては、ブレードやサブペリ、歯内骨内ピンインプラントなど歴史的なインプラントをも推奨していること、手術は立位が座位に勝るという件など、「?」な部分も少なくはない。
「米どころ」で失敗が多いという記載や、(社)日本口腔インプラント学会の認定する100時間講習を受講したインプラン専門医こそが信頼できる、という点も納得しがたい。
(特に前者は「米どころ」で開業している立場からすると、「えっ!」と目が大きくなる)
歯科医師国家試験にインプラントに関する出題がないという点は事実と異なる。
6、7年前から国試に毎年2~3問のインプラント関連が出題されているので、僕は大学でのインプラントの講義の中でそれを紹介している。
インプラントの成功が「外科手術」に傾倒しており、インプラントにおける成功の重要なカギである「補綴設計、咬合」や「治療後のメインテナンス、フォローアップ」などへの言及がなされていないことが残念。
この手の本にしばしばみられる巻末の「お薦めの歯科医院一覧」がないのが、胡散臭くなくてよい。
歯科医では書けない(書きにくい)事をズバズバ書いているのは、私個人としては読んでいて面白かったが、実際に臨床の場でインプラントを行っているドクターにすればいささか不愉快な点もあると思う。
いかにも朝日の記者!っぽく、モノを斜めから見た独断的な表現も随所にあって、一般の読者が誤解したり、妄信したりすることは容易に想像できる。
しかし本書を読んで来院する患者は、良くも悪しくもそうとう手強いはずだ。
インプラントを手掛ける歯科医の一人として、さらに勉強し研鑽を積んでいかなければならないことを再認識するきっかけとなった。
「患者の幸せを第一に」真摯にインプラントに取り組まなければならない。著者の目論見がそうであるように。
2007年10月01日
「生物と無生物のあいだ」
福岡伸一 著
「生物と無生物のあいだ」
講談社現代新書1891
「動的平衡」論をもとに、生物を無生物から区別するものは何かを生命観の変遷とともに考察した本
である。DNAやゲノムなど難解な生命のミステリーを、分かりやすく解き明かしている。
何よりもおもしろいのは、野口英世のロックフェラー大学での評価が、日本のそれとは異なったもの
であるとする様々なエピソードや、DNAの二重ラセン構造でノーベル賞を受賞したワトソン&クリック
以前に、DNAイコール遺伝子だと気づいたオズワルド・エイブリーの研究姿勢など、サイエンスに潜む
裏話がふんだんに織り込まれていることだ。
著者のロックフェラーやハーバード大留学を中心にした研究回顧のエッセーでもあり、科学者がどう
研究に取り組むべきかということも教えられる。文章がすこぶるうまい不思議な科学の本だ。

クイント12月号のミニ書評の原稿にした。
僕にしては珍しくベストセラー本の書評を書いた・・・
2006年03月06日
国家の品格

徳山での講演の際に、主催者の和田精密歯研のインプラント事業部の栗村さんから「帰りの新幹線の中で、暇つぶしにでも」といって渡されたのが、けっこう話題になっている「国家の品格」でした。
栗村さんが言うように、軽快で痛快な国家論が読みやすくて、徳山から博多までの新幹線の中で、ぐいぐい引き込まれるように読んだ。
内容は、いま日本に必要なのは、論理よりも情緒、英語よりも国語、民主主義よりも武士道精神であり、「国家の品格」を取り戻すことである。「国柄」が大事で、弱者や敗者に向けた思いやる心「惻隠」の情が、誇りと自信を与えると提言している。
4月からの保険制度の変更で、ますます窮地に立たされる開業している“歯医者”に対しても、情けをかけて欲しいものだ・・・